ペットの性格に合わせたしつけや防災対策を考えよう!③ 他者への攻撃性が高い子 編
防災対策
災害時に備えたペットの性格や性質に合わせた防災対策。最終回の今回は、他者への攻撃性が高いペットについて。避難所や移動中に、他人や他のペットに噛みついたり吠えたりしてしまう可能性が高い子たちを、どのように導いてあげるとよいのでしょうか。一緒に考えていきましょう。
トラブルのリスクが高い「うちの子」とどう避難するか?

「普段から、他の犬や人に吠えたり、威嚇したりするうちの子を、人が大勢いる避難所に連れて行けるのだろうか?」
これは、攻撃性の高いペットと暮らす飼い主さんが抱える、最も深い不安でしょう。無理に避難所に連れて行けば、事故のリスクが高まります。しかし、家に残すという選択肢もありません。
「攻撃性の高い子」というと、前回お伝えした「やんちゃ・わがまま・落ち着きのない子」に近いような印象も受けますが、最大の違いはトラブルを起こす行動の「目的」。
以前のコラムで扱った「わがままな子」が「要求」でトラブルを起こすのに対し、「攻撃性が高い子」は「恐怖心」や「警戒心」から予測不能な行動に出るリスクを抱えています。そのため、こうした特性を持つペットへの防災対策は、「しつけ」よりも「隔離」と「制御」が最優先事項となります。
では、具体的にどのような対応が求められるのでしょうか。人命とペット双方の安全を守るために、決して妥協できない3つのルールと具体的な対策を解説します。
【命を守る必須ルール①】他人への最高の気遣いは「隔離と遮断」

避難所での共同生活において、人にもペットにも最大の気遣いとなるのは「事故を未然に防ぐこと」。他の避難者に不安を与えない、そして大切なペットが過度なストレスでパニックにならないよう、物理的な隔離を徹底しましょう。
- 頑丈なケージと二重扉の徹底:避難用キャリーは、壊れにくい金属製や硬質プラスチック製を選びましょう。パニックで扉をこじ開けようとしても、簡単に開かないよう、ロックは結束バンドやカラビナなどで二重に固定する対策が必要です。
- 目隠しの徹底:ケージ全体を布や厚手のタオルで覆い、外部の視覚的な刺激(人や他のペット)を完全に遮断しましょう。これが興奮を防ぐ最も簡単な方法であり、周囲の避難者に対する最も重要な気遣いになります。
- 場所の配慮:同室避難ができる避難所に入る場合は自治体や運営スタッフに事情を説明し、他のペットや人が少ない、隔離された場所(隅や別室など)を希望することを事前に相談しておきましょう。
命を守る必須ルール②:逸走と噛みつきを防ぐ「物理的制御」
興奮による噛みつき事故や、混乱に乗じた逸走を防ぐための物理的な制御は、飼い主の責任です。
- リードの二重装着(犬の場合):避難時やケージから出す際は、必ず首輪とハーネスの両方にリードをつけ、常に短く持つ訓練をしておきましょう。万が一、一方の金具が外れても、二重のリードが愛犬の命を繋ぎます。これは、平常時の散歩や外出にも役立つので、必ず訓練しておくことをおすすめします。
- 口輪(マズル)への慣らし(犬の場合): 緊急時、ケージから出す際や、怪我の応急処置時などには、口輪(マズル)の装着が必要になる可能性があります。口輪はペットにとってストレスになるのではないかと心配になるかもしれませんが、適切に使用すれば大きな苦痛を与えるものではありません。
口輪を「罰」ではなく「安全のための道具」として、日頃から嫌がらずに装着できる訓練を、おやつを使いながら短時間で繰り返しましょう。 - 洗濯ネットの準備(猫の場合):猫の場合、噛みつき対策や興奮時の拘束には、目が粗く呼吸しやすい洗濯ネットを避難バッグに常備しましょう。ネットは、暴れる猫を一時的に安全に包み、逸走を阻止するための、非常に有効な手段です。
命を守る必須ルール③:興奮を抑える「心の準備」と「プロの連携」

他者への攻撃や威嚇行動は、恐怖や不安からくることがほとんどです。興奮を予防するための心の準備と、専門家との連携が欠かせません。
- 薬の準備と連携:かかりつけの獣医師と事前に相談し、災害時の不安や興奮を一時的に抑える薬やサプリメントを緊急用に準備しておきましょう。
- プロトレーナーとの連携訓練(犬の場合):命を守るための「待て」「伏せ」「ハウス」といった指示を、興奮状態でも確実に行えるよう、プロのトレーナーと連携した訓練を推奨します。プロを頼ることは攻撃行動の根本原因特定や安全な行動修正につながります。また、リードや口輪など物理的制御のサポート、的確な危機管理訓練を学ぶことで、飼い主のストレスや不安の軽減にも貢献します。避難生活で指示に従えるかは、愛犬の命運を分けます。自己流の対処法に終始せず、適切なサービスを利用しましょう。
- 日常訓練の強化(猫の場合)
「キャリーケースに入る誘導」や「洗濯ネットへの慣らし」を、パニック時でもスムーズに実行できるよう、日頃から練習を繰り返しましょう。
制御は愛情。人命とペットの命を守るための決意
攻撃性が高いペットへ強い指示を出したり、命令をしたりと、厳しく叱ることは可哀想ではないか…と、思ってしまうかもしれません。しかし、「しつけ」や「制御すること」は、決して理不尽な罰や怒りによる強制ではありません。
それは、災害時のパニックで逃げ出し、命の危険に晒すことを防ぐための、ペットへの最大の愛情表現であり、飼い主としての責任でもあります。
万が一、愛犬が人を噛む、あるいは愛猫がパニックで隔離スペースを破壊し他者に危害を及ぼすなどの事故を起こした場合、飼い主は法的・倫理的な重い責任を負います。さらには、一緒に暮らせなくなってしまう可能性もあるのです。ペットの特性や性格を尊重することは非常に大切なことですが、その不安や恐怖を取り除き、すこやかに生活ができる状態を作ってあげるほうが、ペットにとってより幸福な状態を作り出せるのではないでしょうか。
日頃の「隔離」と「制御」の対策こそが、愛するペットをトラブルや離別などの取り返しがつかない事態から守るための、揺るぎない決意なのです。
今日から、愛犬の安全と、周囲への配慮を最優先にした「危機管理」を始めていきましょう。
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参考文献
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環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h3009a.html -
一般社団法人 日本ドッグビヘイビアリスト協会(JDBA)関連情報
https://www.j-dba.com/about -
東京大学 動物行動学研究室/動物医療センター行動診療科 関連情報
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00259.html -
ヒルズペット「攻撃的な犬のトレーニング方法」
https://www.hills.co.jp/dog-care/behavior-appearance/training-aggressive-dogs
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